とりとめのない六人の話09
簡易目次 「とりとめのない六人の話」の検索結果一覧 - 黄昏時の街の日記
とりとめのない六人の話09
「ちょっと、あなた達ね!」
雑談していると、教壇の前にツインテールの女の子が来て叫んだ。名前は……何だったろうか。ビジュアルは覚えやすいが、さすがに名前はすぐに覚えられない。
「ようよう、イズミちゃん。あんたは猫と犬、どっちが好きなんだ?」
シイコが言う。そう、イズミさんだ。
どっちかと言えば『イズミちゃん』といった感じの容姿だ。
ツインテールに長い黒リボンを付けている。女の子のロボットはなぜか、こういうかわいらしい格好をよくしていた。きっと、その用途とか、開発者やデザイナーのセンスがそうさせるのだろう。実際の学生としては、少々浮いているようにも見える。もしかしたら、それが狙いかもしれない。
「どっちが好きって……。私は、犬よ。って、そんなことはどうでもいいのよ!」
「何をそんなに怒ってるんだ?」
シイコが意外そうな顔でイズミを見ている。挑発的な顔だ。
決して、そんな顔が似合うような容姿ではないのに、シイコはなぜこんな顔ばかりするのだろう。彼女達の性格というのは、どこから由来するものなのだろうか。
「もう、役職を決め終わったんでしょう? 教えてくれてありがとうございます。イズミさん」
ナナミさんが穏やかに言う。こっちはこっちで、過剰なくらい人の感情を落ち着かせような雰囲気がある。
イズミはその通りだと言って、教壇を離れようとした。
しかし数歩歩き出して、振り返った。彼女は私を見る。
「そうだ、あとで話したいことがあるんだけど、いい?」
「私に?」
「そう、アキさんに」
何だろうか。
とりあえず、私はホームルーム終了を宣言する。今日は、これで学校は終わりだ。
荷物をまとめる。教室からはぞろぞろとロボットたちが帰っていく。そう、すべてロボットなのだ。やはり、変な気分になる。
しかし、私はこの状況を嫌っているのだろうか。とくに、そういうわけでもなかった。では本心ではどうなのかと言われると分からない。私は彼女たちのことをどう思っているのだろう。
そんな中から、マツリが小走りで近づいてきた。
「学校って楽しいね。うれしいなぁ、こんな体験ができて」
「そう、よかったね」
とくに反論はないが、私にとって学校というのは、それほど楽しい場所でもない。日常の場所だ。
それに、今回はまったく状況が違う。どうしたものだろうか、考えてしまう。考えてもしかたのないことだとは思うけど。
「じゃあ、帰ろっか」
マツリが元気よく言う。
「待ってて、イズミさん話があるって、さっき」
「分かった。じゃあ、校門付近で待ってるから」
「付近って……」
「ちょっと、学校にどんな人がいるのか、見てるから」
「そう」
マツリはこんなに好奇心旺盛だったのかと意外に思う。たしかに、今までは家の中で、私の世話をするくらいだったのだ。新しい刺激が増えて、好奇心が刺激されたのだろう。
さて、はたしてそれが本当に心と呼べる物なのか、私には分からないけど……。
そんなふうにマツリをロボットとして見ることはある。しかし、私の大事な人であることには違いない。
それは例えば、本当に私の両親は、真に私の両親なのかと考えるのと同じようなことだ。どちらにせよ、という意味合いしか持たないけど、それ以外に、大切なものが偽りであった場合を考えても、他に結論がない。
「じゃあ、ちょっといい? アキさん」
「え、ええ」
考え事をしていたら、イズミに声をかけられた。
「イズミって呼んでもいい?」
私は提案する。
「ん、いいよ、……アキ」
にこっと笑うイズミは、やっぱり可愛らしいという言葉が似合う女の子だった。