ゲームシナリオの原案短編小説
揺れる視界のその端に、兄の姿が見えた、気がした。
私はとっさにその「兄」を庇った。それは幻ではないのだ。しかし見間違いではあった。私は自分の頭のまだ動くわずかな部分で、その兄に見えているものがカナであると認識し、庇ったのだ。
次の攻撃が私の肩をかすめる。私の処理能力は、すでにごっそりと空気に溶け出していた。
二人のざくろが迫る。そう、ざくろは二人だったのだ。忌々しい名前。彼女たちはだから、最強の殺し屋なのだ。
「片方がオフラインだなんてね」
このすべてが繋がった世界で、最後の、本物の孤独を味わうと言われる、つながれていない個。
「孤独でない人間はみんな死んでしまったのだろうと思う」
独特の口調でカナがつぶやく。
そういえば兄も、こんなふうな喋り方をしていた。それに、語尾にはいつだって「思う」。今現在、兄はどこで何をしているのだろう。やはり死んでしまったのだろうか。
「天宮は無事?」
もう一人の連れのことを思い出す。
不意打ちの攻撃。気配もなかったから、おそらく私だけを狙うので精一杯だったはずだ。
「大丈夫です」
天宮はオマモリを両手に握り締めて答えた。あのオマモリのために、どれだけの人間が犠牲になったか。おそらく数千人の脳を焼き切ることで得られるその護り。まさに呪いである。
違う。今はそんなことを考えている場合ではないのだ。
私の理性は紙ほども薄くなり、安易な憐憫にすがろうとする。みんな死んだのだ、きっと兄も、だから私も死んでいい。つらいのだ、悲しいのだ、このまま死ねるなら……。
「天宮頭ちょっと借りる」
私は歯を食いしばり想いを停止させ、オマモリのパスワードを解除する。雨宮の回線が完全に開き、間を置かず私はそれを乗っ取る。
いつの間にか握り締めていた端末の画面。そこに流れる文字は、読めない人間にはノイズにしか見えないだろう。もちろん、今この世界に生きている人間で、これを読めない人間は、ごくわずかだが。
双子がさらに攻撃してくる。それはただの紙切れに過ぎない。繊維の配列によって情報を転送するわりとポピュラーな攻撃方法だ。紙なら安価で、今でも大量生産が可能だ。
私はノイズから必要な情報を読み込み、繋がった雨宮で適切な形にし、準備が整えば、もうやることはひとつだ。
私は立ち上がって双子に向かって走り出した。
懐から自慢の凶器を取り出すと、見えた。
双子もちょうど懐から黒い凶器を取り出していた。優雅に、ゆっくり。私より立派な、比べ物にならないような飛び道具。
私は死ぬのだなと思ったが、止まらずに彼女たちに突っ込んで行った。