とりとめのない六人の話05
山本先生の次回作にご期待ください。
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とりとめのない六人の話05
さてどうするか。いっせいに挙がった手を見て私は思考が止まっていた。
そんな中、ひとりだけ手を挙げていないヤツがいた。妙に目立つ。突っ伏して寝ていた。
「いったん、手を下ろして」
私はとりあえず上がり続ける挙手の群れに告げた。
それにしたって何でみんなして手を挙げるのか。めんどくさいことこの上ない。
そんなことをぼんやり考えていると(私は何か考えるときにぼんやりしてしまうクセがある)、ひとりがまた挙手した。
「なにか?」
たずねる。
「ええ。どうしてみんなが手を挙げたのか釈然としていないような顔をしていたものだから、説明してみようかと思って」
立ち上がりながらそう言った女子は、女子というには少し年齢が高く見える容姿をしていた。とにかく、ちょっと、いや、けっこう、……胸が大きかった。
「なに、教えて?」
私は見栄を張って「いちおう聞いてみましょう」といった顔で促した。ごまかせているかは分からない。
「皆さん。何かしら重要な役職につきたいと思っているんですよ。このテストの評価自体は、どのように決まるのか分かりませんが……」
ゆっくりと微笑を交えながら話を続ける。
「唯一の人間である、あなたの近くで働くということは、重要でしょう。私たちを評価するのは、いつでも人間ですから」
言葉の上では嫌味っぽいセリフだが、彼女の優しい雰囲気は、そんな空気をひとつも感じさせなかった。
私はすでに彼女のことが好きになっていた。友達になりたいと強く思った。
「ですから、書記という仕事であなたと関わることをみんな望んでいるんですよ」
言い終わったが、彼女は付け足しで「もちろん、みんながみんなそう思っているわけではないかも知れませんが」と言った。
「ロボットの行動なんてすべてが打算だからね。しかも計算して行動することに、何のためらいも持たない。仕事はできそうだけど、奥ゆかしさがないよね。嫌だなぁ!」
マツリが自分を棚に上げて騒ぐ。マツリはその名前のとおり、うるさい女だ。
「そもそも、副委員長を委員長が勝手に決めるのってアリなのか?」
さっきまで眠っていたのが起きて、何も断らずに発言した。
「知っている人がいないと、やりにくい」
私は正直にそう言う。
「そんな子どもみたいな言い分が通るかよ。あんたは何年生きてる? 私たちはほとんど2年未満だ。しっかりしてくれよ」
……。さっきまで寝ていたくせに言いたいことを言ってくれる。私は自然と彼女を睨んでいた。
「あんたが先生に選ばれたのは、まぁ仕方ないって思うよ。だけど副委員長は、きちんと公平に決めるべきなんじゃないの?」
反論しようにも、確かにそれは言えることだった。
たとえばこの配役が、彼女たち自身の評価に繋がると考えるなら、そうやすやすと決められてはたまらないだろう。
「待って?」
すると先ほど、私に全員の挙手の理由を解説してくれた彼女が立ち上がった。
「そんな意地悪は言わないものだよ、シイコ」
シイコと呼ばれた女は、ニヤリと笑った。
「ああ、そうだなナナミ。意地悪は言うものじゃない。評価も下がるかもしれない」
ニヤニヤ笑いをしながら、シイコは私を見る。
「言い忘れてたけど、そこのナナミと私は知ってる仲だ。ナナミはブリッコだが頭はいいし役に立つ。私は口は悪いしめんどくさがりで役にはたたない。よろしくね、秋」
「……そう、よろしく」
突然自己紹介をされ、また思考が止まる。
すると、教室のうしろから誰かが叫んだ。
「あなた卑怯よ!」
かわいらしいツインテールの女の子が、低い身長を伸ばしてシイコを指差していた。
「なにが卑怯だって言うんだ。……おまえもまたずいぶんとブリッコしたもんだな? その髪型なんだよ。私たちは高校生って設定だよ? 恥ずかしくない?」
「恥ずかしくなんてない! 私がやりたくてやってるんだから!」
「ロボットが自由意志を語ってるよ。興味深い!」
あからさまにバカにするシイコに、ツインの彼女は歯軋りするほど怒りを向けた。
「さっきみたいに、自然に会話しているように見せて、その秋って女の印象操作するつもりでしょ? そこのナナミって女と二人で示し合わせて、ちゃっかり名前まで覚えさせようなんて! 卑怯だ!」
そういうことなのかと、指摘されたシイコを見ると、ニヤニヤ笑っていた。
次にナナミを見ると、私の方を見て優しく笑っていた。本当に、いい笑顔である。
最後、マツリに意見を求めようと彼女を見ると、やっぱり笑っていた。
「そういう手段で相手に自分を覚えさせようという行為が卑怯なら、今おまえがやってるのは卑怯じゃないのか?」
シイコは相手の痛いところを指す。確かにそうだ。私にはもう完璧に、ツインテールでソバカスの似合う、でもかなりうるさそうな女の子という、その印象が頭に刻まれていた。
「私は指摘するために言っただけです!」
自分のやったことが、彼女たちと結果的に同じことをしたことになるということに今気づいたのだろう。なぜか敬語になり、顔を赤くして席に座った。
「まぁまぁ、そうツンツンしないで、仲良くしよう。イズミちゃん?」
何で名前を知ってるのかという驚きを見せる彼女に、シイコは紙をひらひらしてみせる。
それは先ほど先生から配られた、机の列と対応したクラス名簿だった。
イズミと呼ばれた彼女は、また顔を赤くして廊下の方へ顔をぷいとそらした。可愛い。
「さてと、長くなったけど、実は最初から異論なんてなかったんだよ。暇だったから言ってみただけ。副委員長は、そのマツリさんでいんじゃない?」
それだけ言うと、シイコはまた席についた。
私はいちおう、言われた手前筋を通すことにした。
「彼女……マツリは私の家で手伝いをしてくれているロボットです。私も新しいクラスで慣れないことも多いので、知人であるマツリを副委員長にしたいのですが、みなさん異論はありませんか?」
とくに返事もなかったので、私はそれを可決した。