無題

私は「中学校」の「卒業式」を思い出していた。たった一年間、それもひとクラスしかない、その特別な学校の卒業式。そこを卒業して私は高校に通うようになったのだから、逆説的にそれは中学校の卒業式だったのだ。

九割が、いつもの無表情だった。その形だけ模した卒業式は、他人から見ればやはり奇妙なものだろうと、私はそんなことを思っていた。残りの一割、つまり両手で数えられる程度の人数が泣いていた。この学校で行われた形だけの学校行事をより人間らしく「楽しんだ」者たちだ。彼女らは手をつなぎ合って別れの歌を歌い、大粒の涙を流した。

そんな、奇妙な、100パーセント人工的な卒業式が終わって、私が学校の校門を抜けるとき、私は声をかけられた。それはこの学校の唯一の先生であり、私の話し相手でもあった。

「卒業おめでとう」

「ありがとうございます」

そのたった一言だけで、私にも涙が浮かんできた。そう、私はその始めての卒業式で泣いたのだ。わざわざ私に声を掛けるため来てくれた先生と、これでもうお別れなのだと思うと、悲しくて仕方なかったのだ。


「やっぱり機械には感情がないんだな」

夕暮れ時の学校の廊下を歩いていると、ふいにそんな言葉が聞こえた。

「いつも無表情だし、話しかけても反応が鈍いし」

うんざりしたようで話す、おそらくは男子生徒の声。私は自分でも分からぬ間に、足を止めていた。

「XXってさ、始めは可愛いかなって思ったけど、やっぱり同じ教室にいると気持ち悪いな」

私の名前が呼ばれ、いよいよこれが自分のことを言っているのだと知る。

「でもさ、XXって人間性テストで、一番人間に近いって結果が出たんだろ? だからうちの学校に来たわけだし」

他の男子生徒が言う。

「テストをパスするために作れば、得点も高くなるんじゃないか? じっさい、人間性テストってどんな問題がでるんだよ」

人間性テストは極秘だ。私もそのテストを受ければ、受けた期間の記憶をロックされる。

「それじゃあ何の役にもたたないだろ」

「だからさ、どうせそんなテスト元々存在してないってのが俺の予想だな。企業が評判を上げるために、いくらなら何点、とか」

「さすがにそこまではー」

このまま聞いていても仕方ないと思い、私はその場を離れた。