とりとめのない六人の話06

このあいだ暇つぶしに06を書きました。久しぶりに書いたわりにキャラクターが僕の中でしっくりくるので、これは期待できます(なにを?)。

細切れなのを続けて読むのも面倒という人にあらすじを紹介!

林森秋(ハヤシモリ・アキ)という女の子は、父親の仕事の関係で転校することになりました。

普通の転校だったらよかったのですが、ひとつ問題がありました。アキの新しく行くことになる学校のそのクラスは、みんなテストのために集められたロボットだったのです。

アキは先生に無理やり学級委員を押し付けられます。

副委員長として、やかましい友人であるマツリを指名。そのことに突っかかってくるシイコ。それをなだめるナナミ。目立って点数稼ごうとするなとイズミが騒ぎ立てます。

(あれ……六人じゃなくね?)

そして書記二名を決めるために立候補を募ると、シイコ以外みんな手を挙げてしまいました。彼女たちロボットにしてみれば、重要な役割に付いたほうがテストに有利なのです。

さて、どんなふうに書記二名を選び出すのでしょうか。アキちゃんがんばれ!

(自分で読んでも意味の分からないあらすじだ!)


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とりとめのない六人の話06

そもそも、このクラスに書記が必要なのだろうか。記憶するということに関して言えば、彼女達は人間をはるかに越えているはずだ。
しかしそれを言うなら、このロボットクラスそのものが必要ないだろう。ようするに、彼女達は実地での経験によるテストデータを集めるためにここにいるのだから。

「……と、言ういうわけで」

「なにが?」

マツリが見上げてくる。彼女は背が低い。

「いいの。とにかく、書記をさっさと決めちゃわないと」

さて、どうしたものだろうか。クラスの一人を除いて(シイコ)、みんなが手を上げてしまった。

クジを作るべきか?

いや、時間がかかりすぎる。

彼女達の高速な(はずの)脳で、勝手に話し合いでもしてもらおうか。そうすれば一分もかからずに終わりそうな気がするけど。

でもやっぱりそれもダメだ。彼女達は彼女達で役目がある。ここは、ただ一人、人間である私が人間のやり方を教えなくてはならないのだ。

父に気をつかっているのでもないが、実験が自分のせいで失敗したとなれば心苦しい。もちろん、そうなったところで私に責任はないはずだけど。

「じゃんけんでもすればいいんじゃない?」

マツリが言う。

「いいアイディアだ。それでいこう」

全員を立たせて、負けた人は座っていくという方法だ。これなら早く人数を絞ることができる。

「では、皆さん起立してください。私とじゃんけんをして、負けた人から座っていってもらいます」

「すいませーん」

寝ていたのが起きていた。シイコだ。

「私、生まれてから一年しか経ってないので、じゃんけんって何なのか分からないんですけどー」

彼女達は外部に検索できるデータベースをいくらでも持っている。じゃんけんの意味どころか、各地域の掛け声の違いや、起源だって瞬時に知ることができるだろう。

「検索すればいいでしょ?」

私は面倒くさそうに言った。

「そういうのって、差別だと思いまーす」

シイコは間延びした声で返す。彼女は、いったい何がしたいのだろう。気にくわないが、何かしら彼女にも役割があるのかもしれないと思うと、そう邪険に思うことはできない。

気の使いすぎだろうか。

「差別だって!」

マツリがうれしそうに叫ぶ。何がそんなにおもしろかったのか、私の顔をきゃっきゃ言いながら覗き込んでいた。

「何が差別なの?」

「私たちは普通の学生としてここに来ているんだし、私たちは何でも知っているとか、何でも知ることができるだなんて、思ってもらいたくないな」

「それが差別になるの? だいたい、じゃんけんの意味を知らないなんて嘘でしょう」

「ロボットは人間に嘘をつくことはできないよ」

シイコはニヤニヤしながら言った。

マツリがシイコの言葉を聞いて心底うれしそうにする。この子は、どうもこういう話が好きなのだ。昔は普通のロボットロボットしたロボットだったのに。

「どちらにせよ、あなたは立候補していないのだし、関係ないでしょ?」

そう、シイコは手を上げなかった。

「いや、立候補することにした。……そうだな、もう意地悪はやめにして、じゃんけんしようか。みんな、意味は知ってる?」

シイコが教室を見回しながらそう言った。

「ホームルーム活動を邪魔している奴を放って置くなんて、君たちはなってないねぇ。そんなんじゃ落第点取って、研究室でバラバラにされるぞ?」

彼女は黙って起立するだけのクラスメイトを見ながら挑発する。彼女達のテストが点数制なのかどうかは知らないけど、テストに上手くいかなかったら本当にバラバラにされたりするのだろうか。

それなら少し、かわいそうだとも思う。クラスの役職に就くというのも(そして人間である私に近づくというのも)、何かしら重要なことなのかもしれない。

そんなものを本当にじゃんけんで決めていいのだろうか。

「じゃあ、始めてよ。掛け声は、最初はグーでね」

もし点数で彼女達の運命が決まるのなら、シイコはじゃあどういった価値判断で動いているのだろうか。人間である私も、クラスメイトであるロボットたちも挑発し嘲笑することで、彼女に得があるのだろうか。

すっかり仕切るシイコを見ながら、そんなことを思った。