SRSS

シンフォニック=レインの二次創作小説です。リセルシアとファルシータの百合、っていうかレズっていく感じの話。

もう自分でさえ、各話の整合性が取れていない! 妄想小説万歳!

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(ほとんど書かれていないけど)これまでのあらすじ

リセの卒業演奏のパートナーとして練習を続けていたファル。身体の不調に不安をおぼえ、ファルは病院で診察を受けると、不治の病、死の宣告を受けてしまう。

絶望に暮れたファルを見捨てることなく看病するリセ、そんなリセを無意識のうちにファルは抱き寄せ、キスしていたのだった……。

本文

 いつも悲しげに伏せられているリセルシアの顔が、珍しく驚きという感情に満ちていた。
「あ、あの……」
 その主体性のない尋ねる言葉。私はそれをそのまま返したい気分になる。私は、さて、同性が好きだったのだろうか。
「私、死ぬんだって」
 自分しか信じていなかった。自身の利己心以外に頼るものなどない。孤児であった私に頼るものなんて。
「そ、そんな!」
「私には本当に、自分以外には何もなかったみたい。そんな人間が、その唯一持っている自分というものをなくしたとき、何を頼るのかしらね」
 見る間に、いつもの悲しげな彼女の顔に戻る。リセルシア。リセ。このか弱い少女が、私にはどうしようもなく疎ましかった。だけど。
「昔、風邪で休んだクラスメイトの家に、連絡事項を伝えてくれって先生に言われたことがあって……」
 突然喋りだした私をリセが見上げる。目には涙を浮かべて。私の立場だったら、きっと涙することなんてないだろう。
「風邪がうつってはいけないから、連絡事項を伝えてすぐに帰ろうと思ったんだけど、引き止められた。もう熱は引いていて、週明けには学校にこれるって。ここ二、三日は本当に熱が下がらなくて、自分はこのまま死ぬんじゃないかって思ったって。
 その日は寒くて、でも熱のせいだったんでしょうね、そのクラスメイトはベッドから身体を起こして、喋りこもうって魂胆だった。人は弱っているときには、他人でも頼りたくなるものだって私は知っていたから、つまらないことになったなって思った。
 だから、私はクラスメイトをベッドにまた寝かせて、手を握って慰めてあげたの。リラックスして、深呼吸して、つらかったね、がんばったね、って。まぶたに手をのせて優しく閉じると、一瞬で寝ちゃった」
 昔話。これは何年前の話だったか。音楽学院の前の学校か、その前だったか、思い出せない。私にとって印象に残る出来事ではなかったということだ。覚えてはいるがそれは、どうすれば他人を操ることができるかという、私にとっての処世のすべてからの関連記憶でしかない。だから年月というものが記憶から欠落しているのだ。
「そのクラスメイトがね……って、男だったんだけど、しばらくしてから私に告白してきてね。手紙で、好きだって、記憶は定かじゃないんだけど、確か。私、そういう手紙とか、面と向かってでも、そういうこと言われるの多かったから、いちいち細部を覚えてないんだよね」
 露悪的になろうとする自分が滑稽ではあったが、止まらなかった。もう何を隠す必要があるだろう。リセを騙す必要なんてない。それどころか、私は、そんな私を知ってでも、私のそばにいて欲しいと願っている。
「リセも、告白されること多いでしょう?」
 可愛いから。弱々しいから。
「……え、いえ、そんな」
 あるのだろう。照れている。それでもこの子は、どうしてその男たちを頼ろうとしなかったのだろう。
 私は頼りはしなかった。すべてを利用した。
「つまり、人はそういう弱っているときに優しくされると、愛情を持ってしまうってことね」
「本当に、その、助かる望みはないんでしょうか」
「ない」
「その、お父様が、高名なお医者様に知り合いがいると……」
「駄目だと思う。別に、絶対に治らない病気じゃないんだって。治療法もあるって。でも、その治療法はあくまで早期発見してできるもので、だから……」
「ご、ごめんなさい、私」
「な、なんでリセ、が、謝るの?」
「ごめんなさい……」
 自分が助からないのだということを自分で説明している内に、私は泣いていた。私でも死ぬときは泣くのかという、冷静な私が自分を嘲る。
 そんな私を見て悪いことをしたと思ったのか、リセさえ泣き出し、謝る。
 私はたまらなくなって、恐怖で、リセを抱きしめた。歯が鳴るほどの恐怖など、いつか男に襲われそうになったとき以来である。あのときだって私は、頭の中の冷静な私と一緒に、逃げて逃げて、窮地を脱した。歯が鳴って、足が震えたのは部屋に戻ってからのことだ。
 それなのに今私は、もう何も制御できなかった。どんなに疲れていても、どんなに気分が悪くても崩れない、世間に評判の私の笑顔なんて、もう思い出すこともできなさそうだ。
「リセ、リセ、私駄目なの。人を利用することしか知らないから、あなたのことも私、きっと自分を慰めるために使うから」
「わ、私で力になれるなら……。私、何をしたらいいのか分からないですけど」
「どうして? リセには、何の得にもならないことなのに」
ファルシータさんには、いろいろとお世話になったし、それに、優しくしてくれました」
「馬鹿。リセは優しくされたことがないの?」
「……」
「優しさなんていうのはね、求めれば人はすぐに差し出すものなの。少し弱みを曝して、可愛い顔でお願いすれば。……こうやって、今私がやっているようにね」
「でも、ファルシータさんは、そうやってちゃんと教えてくれているじゃないですか。今まで、そんなふうにはしなかったはずです。弱みを見せているから、優しくしろ、利用させろ、だなんて」
「だから私が本気なんだって、あなたは言うの? 思うの? 違う。嘘つきにとって言葉なんて、何でもないものなのよ。私は今、こうやって、私の『本心』を『あえて見せている』だけなの」
「意味が分かりません。それって、ファルシータさんの本当の望みなんですよね」
「私にはもう、望みなんてないのよ。だって、私の望みは私自身の成功だもの。自分が死を免れているとは思ってなかったけど、もちろん転生だって信じていなかったけど、こんなに早く死ぬとは思っていなかった」
 私は弱くなったのだろう。人は簡単に死ぬのだということは、貧しい世界を見てきた孤児の私は知っていたはずだ。今の生活に慣らされ、明日にでも死ぬのだという感覚なんて、とうに無くしていたのだ。
「だったら、私が……」
 リセが私の両肩に手を置き、背伸びして顔を近づける。私はとっさに、首を引っ込めて、それをかわしてしまっていた。
「あ、あの……」
 焦ったように照れるリセが可愛くて、私はすっかり忘れていたと思っていたはずの笑顔をあっという間に取り戻していた。
「あはは、ごめんなさい。自分からするのは平気なのにね」
「いえ、私が、その、一人で勝手に」
「いいの?」
「え、あの……」
「キスしても、いい?」
「え……あ、えっと、あの」
「リセに、キスするね?」
「あ、……は、はい」
 私はリセの腰をぐっと抱き寄せて、無理やりにリセの顔を私の顔に接近させた。強引さや力強さが、きっとこういう寂しい少女には響くだろうなどという、人を利用するという習慣からくる心理分析をしながら、それでも慣れていない、リードする役柄というものを必死で演じようとしていた。私は、言うほどひねくれているわけではないのかもしれない。これは純粋な気持ちのような気がした。リセが欲しい、という。
「う、んん、ん」
 強引に唇を押し付け、驚き強張るリセの身体を優しくさすって落ち着かせる。
「う、ん、ふぁ……」
 微かに唇が離れた瞬間にリセは、ため息のような呼吸をして、私はそれを許さないと訴えるように、またキスをする。
「あ、うぁ、んん」
 リセの耳をくすぐって、できるだけ気を楽にさせようと努める。赤く染まった耳が、まるで色に染まった植物の葉のようできれいだ。
 リセの女の子のにおいがする。こんなもの、自分のだって嗅ぎ慣れたもので、新鮮さなんて無いはずなのに、他人のものだと思うだけで、この少女のにおいなのだと思うだけで、胸が高鳴る。
「リセ、私、止まらないみたいだから……」
 顔を離し、かわいそうなほど涙目のリセを見下ろした。
 もう、リセのことを抱くということしか考えられなかった。